『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第5章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter5, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第5章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
第5章 何を避けるべきか
確定的な研究設計をつくったならば、そのつぎに、非有効性とバイアスという二つの重要な問題に注意する必要がある。バイアスがない(不偏性)とは、正しい推定値が中心にくるように区画が設定されていることであり、有効性とは区間(幅)をより狭く設定することを意味する。

第1節
従属変数における非体系的な測定誤差はバイアスの原因にはならないが、有効性を低下させる。一方で、鍵となる説明変数の非体系的な誤差は、つねに推論に予想可能な方向のバイアスをもたらす。これらのバイアスの性質を理解しておけば、バイアスを軽減したり、さらに排除するのに役立つだろう。
1.
体系的な測定誤差がすべての観察単位に同じだけ影響を与えるならば、因果的推論にバイアスは生じない。
2.
(1)従属変数における非体系的あるいはランダムな測定誤差は、因果的効果の推定にバイアスを生じさせることは通常ない。しかし、それは有効性が低くて不確実な因果的効果の推定を導き出す。
(2)従属変数における非体系的な誤差と同じく、説明変数におけるランダムな誤差もまた、因果的効果の推定を不確実にし、その有効性を低下させる。しかし、説明変数におけるランダムな誤差は、不確実性や非有効性とは別に、従属変数の誤差の場合とはまったく異なるもう一つの帰結をもたらす。つまり、たとえ説明変数と従属変数の間に本当は因果関係があっても、説明変数にランダムな誤差があると、因果関係を示す値は減少し、因果関係があることが隠れてしまうことがある。

第2節
1.
研究の出発点は、理論志向的なモデルでなければならない。なぜなら、理論モデルなければ、変数無視のバイアスを発生させるか、くだらない研究設計で研究するかのいずれかに直面する危険があるからである。
2.
研究に変数無視のバイアスが存在することがわかったからといって、仮説を全面的に否定する必要はない。しかし、変数無視のバイアスの明白な原因となる変数のいくつかを制御しておけば、そうしない場合より、より強く確信のある研究を行うことができるはずである。

第3節
たとえ制御変数が従属変数に対して何の因果的効果をもたないとしても、鍵となる説明変数が有意でない制御変数と相関すればするほど、その変数の因果的効果の推定の有効性は低下する。

第4節
内生性とは、説明変数の値が、従属変数の原因ではなく、結果であることである。真に実験的な操作ができれば、因果関係の方向は一目瞭然となろう。だが定性的研究にせよ定量的研究にせよ、内生性の問題は多くの研究分野につきまとう深刻な問題である。
1.
内生性の問題によって生じるバイアスが避けられないとしても、バイアスの方向を知ることや、正しい推論の上限あるいは下限がどの辺りにあるのかを知ることによって、まったくバイアスのない推論も行える場合もある。
2.
内生性に起因するバイアスを回避するためには、従属変数の概念を再構成して、それ自体の中の従属的な部分と説明的な部分とに分けることである。
3.
内生性の問題を変数無視のバイアスの問題に転換することによって、必要であるにも関わらず無視された変数を明確に測定し、それを制御することができるので、問題をうまく扱えるようになる。
4.
内生性の問題によって生じるバイアスを避けるためには、一般的な内生性の問題を個々の変数無視のバイアスの問題に転換し、バイアスの原因となる変数が作用していない観察を探し出すことが有効な場合がある。
5.
内生性に起因するバイアスを除去するためには、内生変数であるかもしれない説明変数を二つの部分、すなわち明らかに外生的な部分と少なくとも部分的には内生的な部分に分割すべきである。そしてそのあとで、因果的分析をするためには説明変数の外生的な部分のみを分析に利用するのである。

第5節
観察を無作為に選択しない場合には、先行する研究、鋭敏な推測、他の研究家の判断など手持ちの観察に関する既存の知識を参考にして、バイアスの発生や有効性の低下を避けるような観察を選んだり、説明変数の値を割り当てたりしなければならない。もし、バイアスが避けられないなら、少なくともバイアスの方向やおおよその大きなを知るように努めるべきである。

第6節
因果的推論を試みる研究者はつぎの二つの方法のいずれかで、事例を選択することができる。第一は観察の無作為の選択と変数の値の無作為の割り当てであり、nが大きい研究において有効である。第二は観察の意識的な選択であり、nが小さいときに有効である。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉