『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第6章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter6, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第6章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
第6章 観察の数を増やす
研究課題に対するてこ比を最大化することがきわめて重要である。そのためには、理論の観察可能な含意を可能なかぎり多く考え出し、その含意について観察を行うことである。一見、単一の事例を扱っている研究であっても、分析のレヴェルを変えてみれば、実際には、現在検討中の理論にとって有益な、多くの観察を含んでいる可能性がある。

第1節
1.
単一の観察による研究は仮説や理論を検証するためには有効ではない。しかし、たとえすべてに関連する変数の観察が一つしかない「純粋な」単一観察研究であったとしても、それが調査の一部をなすのであれば、因果的説明を検証するうえで役に立つ。というのは、その観察を、他の研究者が集めた別の単一の観察と比較すれば、もはや単一観察による研究ではなくなるからである。
2.
比較分析は、もしかりにそれらの観察のなかに現在の調査対象とあまり一致していないものが含まれていてもその結合は可能なので、比較分析はつねに類推と同程度にはすぐれていて、普通は類推よりもすぐれている。

第2節
理論や仮説を検証するために必要な観察の数は、根本的に存在する変動や、推定の不確実性、説明変数間の共線性、原因変数の分散に依存し、その値は研究設計によって違ってくる。

第3節
理論や仮説を検討するために、より多くの観察を、欲しいと思うならば、手に入れる方法は三つある。同じ指標で追加的な観察単位を観察すること、同じ観察単位を扱うが指標を変えること、そして、観察単位も測定も変えることである。
1.
同じ測定を用いて追加的な観察を行うのは、観察の数を増やす場合の常道である。理論が描く過程の観察可能な実例をより多く見つけるための手法には、大きく分けて二つある。すなわち、「空間を通じて」及び「時間を通じて」の変動を分析することである。
2.
観察単位は同じにしておき、従属変数を変えることによって、理論あるいは仮説を検証するための追加的な実例をつくることができる。このアプローチは、同じ原因から生じる様々な効果を確認することでもあり、仮説を検証するための強力な技術である。
3.
手元にある観察単位の独立変数と従属変数を捨てて、新しい変数と新しい観察単位を含む別の観察可能な含意に向かうという方法もある。元の仮説から派生しているが、本質的に新しい仮説を検証するために、それまで使っていたのとは全く異なる測定値を使うのである。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉