『公共性の構造転換 : 市民社会の一カテゴリーについての 探究 第二版 』

Habermas, Jurgen, ”Strukturwandel der Offentlichkeit: Untersuchungen zu einer Kategorie der burgerlichen Gesellschaft,” Luchterhand, 1979, c1962.(邦訳:細谷貞雄・山田正行『公共性の構造転換 : 市民社会の一カテゴリーについての 探究 第二版 』未来社,1994年.)

【要約】
貴族と知識人は文芸の発達にともなって公共の場で文芸について討議するようになった。
こうした文芸についての議論はやがて、それまで文化の消費者でしかなかった市民の間でもなされるようになった。
また、貴族、知識人、そして市民の間での討議は、文芸の世界だけに留まらず、 政治に関するものまでが討議の対象となっていった。
このような討議形態の下において、人々は国家の統治者による支配から、真理に基づく法による支配を訴求するようになった。そして、法による支配に下で、とりわけ有産階級の人々が求めたのが、私的財産権の保障であった。
しかし、現実には私有財産を持つ私人は国家を構成する私人のごくわずかであり、無産階級の人々の国家に対する影響力は依然として限定的なものでしかなかった。
ところが、無産階級の人々は、政治的働きかけを通じて、国家に対する影響力を獲得するようになった。
そして、無産階級の人々の国家に対する影響力が強くなってくると、国家は、そのような無産階級の人々の求めに応じて、私人間のやりとりに積極的に介入し、私人の所得の再分配の実施を通じて、無産階級の人々の権利を保障するようになった。また、国家のこうした福祉的な政策は、国家だけでなく、公的な色合いを帯びる組織によっても実施されるようになった。そして、このような福祉の社会化の進展によって、私的領域と公的領域の区別が曖昧なものとなってきた。
さらに、かつて国家が実施していた政策の社会化の流れは、福祉だけに及ばす、メディアにも大きな影響を及ぼすようになってきた。つまり、それまでは世論を形成する媒介としての機能を果たしていたメディアが積極的に世論に働きかけ、人々の意識を惹き付けることで世論に対して支配的な影響を及ぼすようになってきたのである。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉