『制度・制度変化・経済成果 』

North, Douglass C. Institutions, Institutional Change and Economic Performance , Cambridge Univ Press, 1990.(邦訳:竹下公視『制度・制度変化・経済成果 』晃洋書房,1994年.)

【要約】
制度とはゲームで言うこところのルールであり、組織はそのゲームのプレイヤーである。
プレイヤーは既存のルールを活用して自分たちの影響力を高め、そのルールを自分たちにとってより有利なものに変えようとする。ここで言うルールには、明文化されたフォーマルなルールと、必ずしも明文化されていないインフォーマルなルールが存在する。
組織はルールに従って行動するが、彼らは必ずしも経済的に最も効率の良い行動をするわけではない。組織はインフォーマルな慣習や文化によって制約を受けている。そして、彼らはそうした制約を無視してまで効率的な行動を選択するわけではない。
インフォーマルなルールがフォーマルなルールとして確立することがある。しかし、フォーマルなルールとして確立していないインフォーマルなルールが世の中には多く存在している。そして、このインフォーマルなルールを無視した行動は、フォーマルなルールとして正当性があっても、世の中で受け入れられない。効率的なフォーマルなルールよりも非効率なインフォーマルなルールが世の中で認められることは日常的にある。
制度は人々の行動を決定づける側面がある。かつて小さな経済圏で人々が行動していたような状況においては、制度の必要性はそれほど高くなかった。人々はその経済圏で共有されたルールに従い行動することで、経済活動をすることができた。しかし、経済圏が大きくなり、多様な人々との交易が始まってくると、人々の行動を導く制度の必要性が高くなりだした。広い経済圏のなかで経済活動を継続して行っていくためには、自分の所有権の移転をスムーズに行えるような必要性が出てきた。高いコストをかけずに他人から自分に所有権を移転することを可能にし、経済活動を妨げる人々に対しては、ルールを実際に執行させる機関が必要である。そして、所有権の移転に対して高いコストがかかる場合には、そのコストを制度によって低減させるような仕組みを作り、それによって社会の複雑性を減少させることが必要である。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉