『ハイエク-知識社会の自由主義- 』

池田信夫ハイエク-知識社会の自由主義- 』PHP新書,2008年.

【要約】
人々は不完全な知識の下で慣習に従って、必ずしも合理的とはいえない行動をする。しかし、この不完全な知識によって生まれ、常に進化を続ける秩序があらゆる合理的な計画をしのぐ。
人は最初から知性と倫理をそなえており、人はそれによって意識的に文明を築いてきたと考える人々がいる。しかし、実際には人が、その目的もわからずに試行錯誤するなかで知識が積み上がり、その結果として文明が築き上げられることが多い。ここでは多くの人々の独立した行動と競争的な努力の結果として、望ましい状態が自発的に生まれているのである。
文明の発達のためには個人が自由に活動できなければならない。他人の権利を侵害しない限度において、人々に自由を与えることによって、人々があらゆる選択肢の中から、もっともよい行動をできるようにしておかなければならない。こうした個人の自由な行動を保障することによって、多くの人々にとって望ましい状態が実現する。
不完全な知識しか持たない人々の利己的な行動が、社会全体の利害と一致することによって、良い社会を実現できるのである。
こうした考え方は、多種多様な情報が存在し、社会全体として一つの目標を設定できない場合に特に有効である。大量の情報が分散していて、単一の主体がその情報を利用することによって社会全体を把握できないような場合には、情報を所有する各々の個人がそれを自分のために利用することで情報の完全利用を実現し、それによってより良い社会を実現していくことが重要である。
単一の主体が未来を「計画的」に運営することは有害であることの方が多く、より良い未来を実現するためには個人の自由を保障した上で、個々の主体が自分たちの利益を追求するなかで、社会全体の利益を増大させていくことを目指していくことが重要である。そして、人々の自由を保障することによって予測、予言することが不可能な未来に対応することが可能になり、また未知の未来を切り開いていくことも可能になる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉