『混沌からの秩序 』

Prigogine, Ilay, and Isabelle Stengers Order Out of Chaos : Man’s New Dialogue with Nature, Alvin Toffler Bantam Books, 1984.(邦訳:伏見康治・伏見譲・松枝秀明『混沌からの秩序 』みすず書房,1987年.)

【要約】
古典科学では、世界は単純であり、時間に関して可逆的な基本法則によって支配されているということを前提条件としている。そもそも、古典科学が発達した西洋の思想においては、世界を巨大な自動機械として考え、神がそうした世界を含めた宇宙を支配していると考えている。したがって、ある現象は、決定論的な方程式で十分に説明できるとする。ゆえに、古典科学においては力学の世界に進化と結びつくようなものは何もないということを前提として考えるのである。
しかし、実際には自然現象は特定の普遍的方程式のみによって説明できるわけではなく、あらゆる状況において、そこには確率論的な過程が含まれている。したがって、われわれの住む世界では、不可逆性と乱雑性こそが通例であり、可逆性や決定論は、限定された単純な場合にしか適用されないのである。
古典物理学で決定されたモデルは、物質をある箱の中に閉じ込め、平衡に達するまで待つといった方法で人工的に作られるような、限定された状況を前提とする。したがって、この限定的なモデルの中においての人工的な現象は決定論で可逆的である可能性が高い。
しかし自然の現象は乱雑性と不可逆性という本質的要素をもっている。物質はもはや機械論的世界観で述べられたような受動的な物体ではなく、物質には自発的な活性が伴っていると考える新しい物質観が生じてきているのである。そして、こうした物質観によって自然と人間との対話について語ることが可能になる。
我々の知っている宇宙には力がなく、熱があり、温度がいたるところで等しいような宇宙の死に向かって進んでいる。どのような力もこの傾向に逆らうことはできない。
しかし、偶然は逆の影響を及ぼしうる。力は長期的には散逸的であり、偶然は長期的には集中的である。したがって、小さなゆらぎが、巨視的な系全体の振る舞いを急変させるような、全く新しい展開を開始させることがある。
平衡から遠く離れた条件下で、無秩序あるいは熱的混沌から秩序への転移が起こることがあり、物質の新しい動的状態が出現することがあるのである。そして、この新しい状態を散逸構造と呼ぶのである。
平衡状態では物質は盲目である。しかし、平衡から遠く離れた条件下では、物質は外界の違いを感知し、それを考慮に入れて機能し始めるのである。そして、このような現象の存在によって世界は一様性からはほど遠いということが分かる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉