『オープン・アーキテクチャ戦略 』

國領二郎『オープン・アーキテクチャ戦略 』ダイヤモンド社,1999年.

【要約】
オープン・アーキテクチャ戦略とは、本来複雑な機能を持つ製品やビジネスプロセスを、ある設計思想(アーキテクチャ)に基づいて独立性の高い単位(モジュール)に分解し、モジュール間を社会的に共有されたオープンなインターフェースでつなぐことによって汎用性を持たせ、多様な主体が発信する情報を結合させて価値の増大を図る企業戦略のことである。
この戦略は今日無視しえないトレンドであり、これが力を増している理由は次の三つの要因によって説明できる。
第一に機械の情報処理・伝達能力が飛躍的に伸びているのに対して、人間の認知能力が限られており、それが希少資源となっていることだ。この希少な人間の認知能力資源を節約し、人間の生産性を最大化するための工夫が、知をカプセル化(モジュール化)してモジュール同士を結合させるオープン・アーキテクチャ戦略の優位性を生み出している。
第二に、情報がネットワーク化されたことで、顧客側が商品やその提供者に関する情報が入手しやすくなるのに対して、企業側では顧客に関する情報の入手が困難になってきたことから、顧客の発信する情報をビジネス化することが、競争優位に立つためのカギとなっている。この顧客のもつ情報をもモジュールとして、その他のモジュールと結合させることがこの戦略を優位にしている。
第三に、情報は複製して共有するコストが低く、お金を取ろうと思うと課金コストが高いという情報の非物財的な特性が表面化してきた。この情報の特性が、多くの人間の知恵が集積し、相互に影響し合いながらつくられるときに大きな価値を生み出すという情報の経済性と相まって情報を公開し他者の情報と結合させるというオープン・アーキテクチャ戦略を有利なものとしているのである。
すなわち、オープン・アーキテクチャ戦略とは、製品や組織の構造をより開放的なものにすることによって、広範囲の多様な主体が発信する情報を結合した時に発揮する力を引き出すための戦略なのである。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉