『新訳 経営者の役割 』

Barnard, Chester I. The Functions of the Executive, Harvard University Press, 1938.(邦訳:山本安次郎・田杉競・飯野春樹『新訳 経営者の役割 』ダイヤモンド社,1956年.)

【要約】
・組織の要素
組織の要素は(1)伝達、(2)貢献意欲、(3)共通目的である。
組織は、(1)伝達することで個人の行動を共通目的の達成に向かわせることができる、(2)個人の負担よりも大きな誘因を与えることで個人の貢献意欲を引き出すことができる、(3)組織は目的を持つことで、目的の達成に必要な個人の努力や誘因を予測することができる。
・有効性と能率
組織が存続するためには、有効性または能率のいずれかが必要である。
有効性とは組織の目的の達成度合いであり、能率とは貢献者が得る満足の度合いである。
・公式組織と非公式組織
組織は公式組織と非公式組織に分けることができる。公式組織は意識的であるが、非公式組織は無意識な社会過程から成り立っている。
公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働がなされる組織のことであり、公式組織においては非公式組織が3つの機能を担う。(1)伝達機能、(2)貢献意欲と客観的権威の安定を調整することによって公式組織の凝集性を維持する機能、(3)自律的人格保持の感覚、自尊心および自主的選択力を維持する機能が、それである。
・公式組織における管理者
公式組織において管理者は、具体的行動において矛盾する諸力の統合を促進し、対立する諸力を調整する。これらの諸力は、組織に対して利用可能な素材を提供するとともに、その活動を制約する。ここで制約とは、ある状況において変更できそうな要因のことを指し、この要因に変更を加えることで制約は克服できる。管理者のもとで組織がある要因に変更を加えれば環境が変わり、制約が克服される。しかし、変更を加えられた環境は、組織にとっての新たな制約となる。協働が安定的なものとなるか、あるいは永続的なものとなるかは、組織が物的、生物的、社会的な素材、要素、諸力からなる環境が不断に変動するなかで、管理者がいかにその組織の内的な諸過程を再調整し、複雑な性格の均衡を確保する職務の優劣による。
・目的の達成
組織の目的を成し遂げるためには、目的を分割することや、分割された目的を適切な順序で達成することが必要になる。そして、目的が適切に分割されれば、分割された目的を成し遂げることが、最終目的を達成するための手段となる。
・貢献と誘因
個人は貢献によって得られる誘因が負担よりも大きい時に、組織に貢献する。したがって、個人から組織に対する貢献を引き出すためには、誘因を増大させるか、負担を軽減させることが必要になる。組織が必要とする個人の貢献にふさわしい誘因を与えることができなければ、組織は存続することができない。そこで、必要とされるのが、組織が提供しうる誘因が適当となるように個人の欲望を説得によって改変することである。
・権威の受容
個人に対する権威を確立するためには、個人の同意が必要になる。ただし、個人は個別の状況において権威に同意するか否かを判断しているわけではない。個人には「無関心圏」というものが存在しており、個人はその圏内では権威の有無を意識的に反問するとこなく、それを受容するのである。
・組織の管理プロセス
組織の管理プロセスが適切であるか否かは、組織の目的が有効な手段を用いて、能率的に達成されたか否かということに関わる問題である。
このうち、管理プロセスの有効性は、最終目的を達成するために全体情況のもとで選択された手段が適切か否かということであり、管理プロセスの能率は、組織活動を引き出すに十分なほどの個人の動機を満足させて、組織の活動の均衡を維持することである。組織は全体の均衡を保つために、組織外に様々な効用を分配しながら、組織内に余剰を生みだす調整を実現する。そして、こうしたバランスが保てることに成功しているか否かによって、組織の管理プロセスの効率性は判別することが可能になるのである。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉