『経営学のフロンティア/3情報技術革新と経営学』第3章

稲葉 元吉・貫 隆夫・奥林 康司編著『経営学のフロンティア/3情報技術革新と経営学』, 第3章「情報技術と経営のアーキテクチャ」, 中央経済社, 2004年, pp.45 − 71.

【要約】
情報化と経営システムの相互作用はアーキテクチャに注目することによって捉えやすくなる。ここでアーキテクチャとは、「全体システムが複数の下位システムによって構成されているときに、全体システムの機能、下位システム間の役割分担、そして下位システム間の相互作用の方式(インターフェース)の設計思想」と定義する。このように定義すると、情報化の帰結といわれる広範囲にわたるテーマを製品、ビジネス・プロセス、組織などのアーキテクチャで語ることができる。
情報化は経営のさまざまな局面においてコミュニケーションを増大させ、アーキテクチャを変化させている。
第一に情報化の進展は製品のアーキテクチャが変化させた。情報化は製品を集中処理型のクローズドなアーキテクチャから、分散処理型のオープンなアーキテクチャへと変化させた。
第二に情報化は組織のアーキテクチャを変えている。コミュニケーションの制約によって実現できなかったところで、コミュニケーション・ボトルネックが解消されたことによって、組織は様々なニーズを満たすことが可能になり、それにともなって組織構造の再編が進んでいる。
第三に情報化によってコミュニケーション・ボトルネックが緩和されたことによって、ビジネス・プロセスも変化している。顧客の膨大な情報処理ニーズに応えることが可能になったことによって、ビジネス・プロセスが変わってきている。
第四にビジネス・プロセスの変化が企業をまたがって起こることによって、産業構造も変化している。需要の飽和と情報化による顧客の持つ情報量の増大にともなって、大量生産品をメーカーが川下に流していくという志向から、個別の顧客のニーズをきめ細かく拾って応えていくという志向に変化している。情報化の進展が産業のアーキテクチャまで変化させているのである。
このようにみると、コミュニケーション・ボトルネックにおける情報技術の変化が全体システムのデザインに大きな影響を与えているということが理解できる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉