『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 』

Christensen, Clayton M. The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail, Harvard Business School Press, 1997. (邦訳:玉田俊平太,伊豆原弓 『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 』翔泳社,2001年.)

【要約】
論理的で正しい経営判断が、企業のリーダーシップを失墜させてしまうことがある。
なぜ優秀な経営を行っている企業が業界のリーダーシップを失ってしまうのだろうか。それは、優良経営原則の多くが、企業の特定の状況にしか適していないからである。
現実には、顧客の意見に耳を傾けることが間違っている場合、性能が低く収益率の低い製品の開発に投資することが正しい場合、主流市場ではなく小規模な市場を積極的に開拓することが正しい場合がある。
優良企業は持続的技術を用いて、既存の顧客のために製品の性能を高める行動をとる。そして、その技術によって高い利益率を実現できるハイエンドの顧客の需要を満たすことを目指す。
しかし、時として既存の顧客をもたない企業が、優良企業の製品よりもシンプルで低価格、利益率の低い製品を商品化し、大企業に置き去りにされたローエンドの需要を満たし始める。この企業は規模が小さいため、低い利益率でしか惹きつけることのできないローエンドの顧客がもたらしてくれる売上でも満足することができる。
ここで、注目に値するのが技術革新のスピードの速さである。技術革新のスピードは顧客の需要に対して急激に上昇する。したがって、当初はローエンドの需要しか満たすことのできなかったベンチャー企業でも技術革新によって、ハイエンドの顧客の需要を満たすことが可能になってくる。その結果、優良だとされていた企業のリーダーシップをベンチャー企業が奪ってしまうのである。
一方で、優良な企業は既存顧客のニーズに注意を払いすぎた結果、ハイエンドの顧客の需要を追い抜いてしまい、市場を自ら狭めてしまうことになる。
それでは、既存の株主や顧客を持ついわゆる優良経営を行っている大企業はベンチャー企業の破壊的な技術革新にどのように対抗していけば良いのだろうか。
大企業が短期的にうまみのない破壊的技術にすべての資本を投入することは賢明でない。
しかし、大企業であっても破壊的技術に対する需要の低いうちから、破壊的技術を開発する独立部門を設けることができる。そして、この独立部門に資本や人材を投入し、市場の規模の拡大とともに、そこに投資する資金や人材も拡大していくことができる。
このような方法をとれば、優良な経営をしている大企業も破壊的技術を用いた分野に参入でき、後続の企業に対して競争優位を築くことができる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉