『キャズム』

Moore, Geoffrey, Crossing the Chasm: Marketing and Selling High-tech Products to Mainstream Customers, Harper Business Essentials, 1991revised 1998. (邦訳:川又政治 『キャズム翔泳社,2002年.)

【要約】
新たなテクノロジーに基づく製品が市場に受けいれられていくプロセスを、製品ライフサイクルの進行にともなって顧客層がどのように変遷するかという観点からとらえたマーケティング・モデルがある。
このモデルでは顧客を5つの顧客グループに分類し、それをベル・カーブによって表す。ここでは顧客を新しいテクノロジーを追い求めるイノベーター、新たなテクノロジーがもたらす利点を検討、理解し、それを正当に評
価するアーリー・アドプター、他社の導入事例を確認してから、その製品を購入しようとするアーリー・マジョリティー、製品の業界標準が確立されるのを待ち、手厚いサポートを受けるために、実績ある大企業から製品を購入したがるレイト・マジョリティー、そして新しいハイテク製品に見向きもしないラガードに分類し、それを表現する。
ハイテク製品の市場を拡大させていくためにはこのモデルのベル・カーブに合わせて、最初はイノベーターに焦点を合わせて市場を創出し、次はアーリー・アドプターの心をとらえてその市場を拡大し、アーリー・マジョリティー、レイト・マジョリティーへと駒を進めていく必要がある。そして、このプロセスを進めていく際には、それぞれの段階でとらえた顧客グループを、次の段階の顧客グループを攻略するための先行事例として活用することが重要になる。
しかし現実には、ある顧客グループから次の顧客グループに移行するというのは容易なことではない。なぜなら、それぞれに異なる特性をもつ顧客グループのあいだにはクラック(隙間)が存在するからである。そして、特にその特性が大きく異なるアーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーのあいだには深く大きな溝であるキャズムが存在している。
キャズムは初期市場とメインストリーム市場を分かつ溝である。そして、少数のイノベーター、アーリー・アドプターで構成される初期市場から、多数のアーリー・マジョリティー、レイト・マジョリティーで構成されるメインストリーム市場のあいだに横たわるキャズムを超えることができればハイテク分野で財をなすことができる。しかし、それに失敗すればすべてが水泡に帰してしまうことになる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉