『経営学 』

小倉昌男経営学 』日経BP社,1999年.

【要約】
宅急便事業を成功させるためには、「サービスが先、利益は後」という発想が必要である。
なぜなら、宅急便事業においては、サービスを向上して、郵便小包との差別化を図らなければ、利益の上がる事業にはならないからである。
また、この事業においては、「社員が先、荷物は後」「車が先、荷物は後」というモットーも必要になる。
なぜなら、市場のニーズに合わせて社員や車の数を揃えるのではなく、予め社員や車の台数を増やしておき、サービス水準を上げることが顧客の潜在需要を開拓することになるからである。
宅急便が収益を上げるためには、車一台あたり、社員一人あたりが扱う荷物の量が増える必要がある。そして、この取り扱い荷物の量を増やすためには、サービスの差別化だけが考えられる手法である。したがって、事業が赤字を脱却するまでは、収支のことは議論せずに、サービスレベルだけを問題とすることが必要である。
また、個人の荷物を輸送する場合には、商業貨物の輸送とは異なった方法で事業を行うことが必要になる。
商業貨物の場合には、午前中に貨物を配達し、午後に出荷される貨物を集荷する一日一回のパターンで良いが、個人の多様なニーズに対応するためには、この荷物の集配と運行のサイクルを一日二回にする方が良い。また、継続的な取引を前提とする商業貨物の輸送とは違って、宅急便においては、日々車をその地域に走らせ、宣伝し、地元の人々に荷物を出そうという気になってもらうことが必要である。
さらに、安全で効率的な業務を実現する上でも、「サービスが先、利益は後」というような優先順位を決断し表現することは必要である。安全も能率も、どちらもしっかりとやれと言っていると、結局どちらも中途半端になってしまう。しかし、「安全第一、能率第二」、「安全第一、営業第二」というように優先順位をつけて示すことで、本当に大切なことが何なのかが明確になる。
会社の社長は、会社の現状を正しく分析し、何を重点的に取り上げなければならないかを選択し、それを論理的に説明すること、つまり戦略的思考をすることが必要である。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉