ケースライティングハンドブック

高木晴夫監修『日本版ケースライティングハンドブック』株式会社テレコンサービス, 2007.
http://www.casecenter.jp/ccj_user/main/other/guide_book.aspx
【要約】
・教育ケースとケーススタディ
教育ケースとは、個々の場合における、それぞれの事実を教育の題材として仕立て上げたものの総称である。
一方で、ケーススタディとは、ある問題の具体例を詳しく分析して、一般的な真実を導き出す研究方法である。

・ケースメソッド
ケースメソッドでは、現実に起こった『事例』を使って、意思決定の問題を生徒に考えさせることにより、理論やセオリーを現実の世界でどのように役立てたり、応用させたりできるのかを学ばせることができる。レクチャーで学ばせるよりも、「理解させる」「記憶させる」ことに優れている。

・なぜビジネス教育にケースメソッドを適用するのか
ビジネス教育においては、自分の置かれている状況をどのように捉え、解釈し、対応するかというPDCAサイクルを適切に回す実践力が求められている。ケースメソッドは、こうした実践力を訓練することに適した教育メソッドである。

・良いケースの条件
良いケースは次のようなポイントを持っている。
1.目的にあった教育主題を持っている
2.話の展開が優れている
3.受講者に問題提起していて、受講者はそれが容易に認識できる
4.受講者自身が分析・考察することができる内容である
5.受講者が意思決定者になりきることができる内容である
6.議論をかもしだす内容である

・ケース制作のきっかけ
制作するケースの対象が先に決まっている場合、探索効率が良く、調査を進めていくうちに、当初想定していた論点がその事例では議論できないとわかっても、これまでの調査の中から議論するのにふさわしい代わりの論点を用いてケースを再構成すれば良いので、これまでの活動が無駄になることが少ない。

・公開情報調査と個別調査
一般公開情報のみでケースを作成することが可能な場合もあるが、個別調査を行うことで、現実に起こっていることをよりリアルに描くことが可能になる。

・調査の実施
ケース作成における調査方法としては対象者に対するインタビューが主たる方法となる。ただし、構造化されたインタビューを実施することはなく、現場のリアリティを引き出すために、半構造化インタビューや非構造化インタビューを実施することになる。

・ケースの構成と書く順序について
学習者が効率的・効果的に学習することを目指して作られたケース教材の多くは、下記のような順序で構成されている。
1. テーマ的なリード文
2.そこに至る時系列項目と詳述すべき主要項目
3.主人公の意思決定課題
4.補足資料

・ケースのチェックについて
ライティングケースは以下の項目をチェックする必要がある。
1.テーマ選定
2.教材としての妥当性
3.記述内容
4.文章表現
5.形式

・ケースの試運転
完成したケースはケースメソッドを実施する授業で使用されることにより始めてその価値が発生する。授業でよいパフォーマンスを発揮するためには、そのケースが学習者によいディスカッションを促すものであるか否かを試してみることが重要である。

ティーチングノート
ティーチングノートとは、ケースライターが意図を持って制作したケースを他の利用者に共有するためのツールである。

・ケースの使用許可
個別調査を行った上で制作したケースの場合、最終的に情報提供者からケースとして使用許可を取り付ける必要がある。

・ケースの登録
使用許可を取り付けたケースはケースメソッドの実践用教材として日の目を見ることが可能になる。また完成したケースは日本ケースセンターなどに登録することができる。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉