『フィールドワークの技法−問いを育てる,仮説をきたえる 』

佐藤郁哉『フィールドワークの技法−問いを育てる,仮説をきたえる 』新曜社,2002年.

【要約】
フィールドへのアスセスに際しては、1.有力な「ツテ」を探すことと、2.調査報告書の概要について説明できるような資料を用意しておくことが必要になる。

フィールドワークは、参与観察や密度の高い聞きとりなど狭義のフィールドワークと、狭義のフィールドワークにサーベイの実施や資料の分析などを加えた広義のフィールドワークの2つに分けることができる。

フィールドワークは、様々な技法を併用することによって、一方ではそれぞれの技法の長所を生かし、他方ではそれらに特有の短所を補い合うアプローチである。

フィールドワークの意義は、調査を通して検討していくべき問題そのものの本質を明らかにした上で、具体的な一つひとつのチサーチクエスチョンの間の関係を整理し、構造化していく作業である。

仮説検証型のサーベイでは、仮説は予めつくり込んでおく必要がある。しかし、仮説生成的な調査法であるフィールドワークでは、仮説は何度もつくり直す必要がある。

フィールドワークにおける問題構造化作業の醍醐味は、生き生きとした体験や実感に根ざしたアイディアを、その鮮度を損なうことなく、さらに深く追求できるような理論的枠組みと実証研究の道具立てを探し当てていくことにある。

フィールドワークには、多くの場合、「理論的にも実践的にも意義のある問い(リサーチクエスチョン)は何か?」という、「問いそのものについての問い」に対する答えを見つけ出していく作業が伴う。

フィールドワークにおいては、データの収集、データの分析、問題の構造化という三種類の作業が同時並行的に進行するものである。

フィールドワークにおける、仮説とは「既にある程度分かっていることを土台にして、まだよく分かっていないことについて実際に調べてみて明らかにするための見通しとしての仮の答え」のことである。

調査の段階における、問いと答えの対応関係は、問題設定としての「問い」、問いを構造化し、答えを導き出すためのデータを収集するテクニックとしての「調査技法」、仮説や結論としての「答え」、エスノグラフィーの作成作業の4つに分けることができる。

フィールドノーツが具体的に何を指しているかということについては、日本ではもちろんアメリカでも一致した見解がある訳ではない。しかし、アメリカの人類学者たちは、少なくとも次の4種類の資料をフィールドノーツと呼んでいる。
1.現場メモ
2.清書版フィールドノーツ
3.聞き取りの記録
4.調査の最中につけた日記や日誌

もしフィールドノーツの記述について何か最低限のルールがあるとすれば、それは、あらゆる工夫をこらしてかなり時間が経過した後でも、その記述を見れば現場の情景が再生できるようなものにする必要があるということである。

フィールドワークにおけるインフォーマルインタビューには、次の4つ作業が含まれる。
1.情報の入手
2.問題の構造化
3.言語の習得
4.役割の取得

フォーマルインタビューというのは、「状況証拠」の積み重ねを通して浮かび上がってきた仮説の当否を、当事者の証言を通して検証していく作業であると言える。

エスノグラフィーという用語のなかには、単に「どのように調べたらいいか」という問題関心だけでなく、「調べた結果についてどのように書けばいいか」という問題意識が常に含まれる。

問題設定、データ収集、データ分析、エスノグラフィーの執筆という4つの作業を同時進行的に進めていき、問題と仮説を徐々に構造化していくだけでなく、エスノグラフィー自体も次第に完成させていくアプローチを漸次構造化法という。

フィールドノーツとエスノグラフィーの間にはかなりの隔たりがある。この隔たりを埋めるのがコーディングである。

比較的初期の日常語によるコーディングの仕方を「オープン・コーディング」と呼び、抽象度の高い言葉を使って行われるコーディングのことを「焦点を絞ったコーディング」と呼ぶ。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉