『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第1章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter1, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第1章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
はしがき
本書の目的は、定性的な研究において、因果的推論や記述的推論を行うための統一的なアプローチを発展させることにある。

第1章 社会科学の「科学性」
第1節
本書は、妥当な記述的推論や因果的推論を行うための研究設計の方法を論じたものである。
・1
ある現象の特定の側面を数量的に測定し、それに基づいて研究する傾向がある定量的研究と、ある出来事や観察される単位を、おおまかに、あるいは包括的に説明することに関心を持つ傾向にある定性的研究は、どちらも一つの根源的な推論の論理に基づいている。
・2
優れた研究、すなわち科学的な研究は、設計の面では、以下の4つの特徴をそなえてなければならない。
(1)科学的研究は、観察を用いて、他の観察されていない事実を学ぶ記述的推論や、観察されたデータから因果関係を学ぶ因果的推論を行うように設計される。
(2)科学的研究は、データを作成し分析するにあたって、明示的で体系的な公開された手法に従って、進められる。これによりデータの信頼性を評価することが可能になる。
(3)推論とは、定義上、不完全な過程である。推論の目的は、定量的もしくは定性的データを用いて、そのデータを生み出した現実の世界について学ぶことである。
(4)あらゆる領域の科学に共通するのは、方法であって、題材ではない。
研究が学会の関心ごとに明示的に取り組み、公開された手法を用いて、利用できる情報と科学的ルールとに矛盾しない推論を作り出すかぎりにおいて、その研究は学会に貢献していると考えることができる。
・3
ある状況が複雑だと認識されるかどうかは、現実をいかにうまく単純化できるかという研究者の能力に負うところが大きい。そして、単純化する能力は、首尾一貫した考え方で、結果と説明変数とを特定することができるかどうかによる。

・第2節
本書では、分析のための研究設計の性質を理解しやすくするために、便宜的に研究設計を、研究の問い、理論、データ、データの活用の4つの構成要素に分けて説明する。
・1
研究は、現実の世界において重要なテーマを扱うべきであるし、それと同時に、現実の世界の一側面を実証的・科学的に説明することを通じて特定の学問研究に貢献するように設計されるべきである。
・2
社会科学の理論とは、研究の問いに対する答えを、論理的かつ正確に考察したものであり、提示した答えが正しいことを示す理由についての論述も含んでいる。理論は、研究の問いに関連した既存の証拠と矛盾しないものでなければならない。
・3
データの質は、以下の5つの指針に従うことで改善することができる。
(1) データを作り出す過程を記録し、報告する。
(2) 理論をしっかりと検証するために、できるだけ多くの観察可能な含意に関係するデータを集める。
(3) 研究者が測定したいと考えているものを、本当に測定できているか否かという測定の妥当性を最大化する。
(4) 信頼できる方法でデータを収集する。
(5) 全てのデータと分析は、できるだけ追試可能であるべき。
・4
既存データの使用については、以下の2つの指針に従うことで改善することができる。
(1) 推論を作り出すためには「バイアスのないデータ」、すなわち、平均して正しいデータを用いる。
(2) 記述的推論もしくは因果的推論を行うために用いられるデータの有効性を最大化する。

・第3節
研究設計を発展されるためには、4つの重要なポイントがある。
・1
理論とデータをつなぐ観察可能な含意を用いること。理論の観察可能な含意は、どのようにデータを収集すればよいかを教え、理論に関係のある事実と関係のない事実とを区別してくれるものでなければならない。
・2
できるだけ少ないことがらで、できるだけ多くのことを説明すること。
・3
推論の確実性の程度を、適切な評価を行ったうえで報告すること。
・4
因果的推論は不確実であるため、正確な因果的推論に次第に接近できるように継続的な努力をすること。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉