『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第4章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter4, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第4章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
第4章 何を観察するか
研究が成功するか失敗するかは、事例の選択にかかっているといってよい。なぜなら、事例の選択がお粗末だと、研究の後半の段階でいかにすぐれた因果的推論を行っても、無駄な努力に終わってしまうからである。

第1節
研究はてこ比を最大化させるように設計すべきである。しかし、このようなてこ比がまったくないような状況が二つある。一つ目は、観察された含意よりも多くの推論を行ってしまう場合であり、二つ目は、二つまたはそれ以上の説明変数が完全に相関してしまっている場合である。
・1
観察された含意よりも多くの推論を行っていながら、事例を追加できない場合には、従属変数の抽象度を上げるか、事例を分割して観察の数を増やすかして、研究を設計し直す必要がある。
・2
観察が少ないことによる問題が解決されたとしても、複数の説明変数が完全に相関している場合には、研究を設計し直す必要がある。

第2節
事例選択のバイアスを和らげる方法が二つある。一つ目は、詳細な事例研究から引き出した因果的仮説が、多くの観察にとっても重要であることを確認できる情報を集めることであり、二つ目は、詳細な事例研究に含まれる膨大な情報を、理論にとって観察可能な数多くの含意に再構成することである。

第3節
・1
nの大きな研究で無作為選択をするときには、観察選択のルールと分析中の他の変数との間の関係は無視することができる。しかし、無作為選択を行わないとなれば、選択基準が各々の変数とどういう関係にあるのかを考えなければならない。ここから、従属変数が少なくともある程度は散らばる可能性をもつように、観察を選択するべきであるというルールが導かれる。
・2
鍵となる説明変数の類型に従って、調査に含む観察を選択することは、推論を行う上で何ら問題を生じさせない。なぜなら、起こりうる従属変数の散らばりを制限していないために、選択の手続きが研究の結果を前もって決めることがないからである。
・3
因果的効果が大きくなる観察単位を選択し、これらの効果を平均値と考えると、平均因果的効果を過大評価してしまうことになる。同じように、因果的効果が小さくなる観察単位を選択した場合には、平均因果的効果の推定値は実際よりも小さくなる。

第4節
・1
もっとも良い「意識的な」設計は、従属変数の値は考えずに、説明変数に散らばりがあるように観察を選択することである。
・2
説明変数に沿った観察の選択に代わる手段は、従属変数が様々な値をとるように観察を選択するようにすることである。
・3
説明変数と従属変数の両方に基づいて、意識的に観察を選択することは危険である。なぜなら、結果にバイアスをもたらしやすくなるからである。もっとも明白な過ちは、検証しようとする仮説と一貫するように、説明変数と従属変数が変化しているような観察を選択することである。
・4
社会科学者はときとして、選択の基礎になっている説明変数が一定になるように観察を選択することがある。説明変数が一定の場合、その因果的効果を測定できないため、このようなアプローチは明らかに欠陥をもっている。しかし、このようなアプローチも、説明変数が別の値をとるときに、従属変数がどのような値をとるのかを見つける研究に先行するものとしては、価値がある。
・5
従属変数が散らばりをもたないように観察を選択した研究からも、因果的効果について何も知ることができない。しかし、十分な情報が先行研究の中にあるのならば、それを妥当な因果的推論を生み出すために使うことができるかもしれない。

第5節
研究設計の究極の目標は、説明変数に基づいて選択を行い、従属変数に散らばりをもたせるようにすることである。しかし、この目標に至る途上で、便宜的に、従属変数の値を考慮して研究を設計することもありうる。しかし、その場合には、最大限の注意を払わなければならない。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉