『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第2章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter2, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第2章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
第2章 記述的推論
科学的な記述はいくつかの基本的な特徴をもつ。まず第一に、科学的記述は推論を含むということである。記述のための作業の一部は、観察された事実から、観察されない事実に関する情報を、推論することにある。第二は、観察された事実のなかで体系的部分を、そうでない非体系的部分から区別することである。

第1節
社会に存在する個々の事物ーより正確にはそれらの事物に関する特定の事実ーは、一般化のための基礎となる。加えて、より一般的な結論を学ぶことによって、個別事例をより深く理解できることが多い。
・1
社会科学の理論に求められるものは、理論によって、事例の因果関係が証明されること、そして、社会的な行為の理由や意味が説明されることである。
・2
社会科学の研究というものは、特定の場所でおこった特定の出来事(たとえばフランス革命)についてだけでなく、出来事の集合(たとえば革命)について、何かを教えてくれるものでなければならない。
・3
構造的な、焦点を絞った比較をするためには、すべての観察単位から同一の変数に関するデータを収集しなければならない。この比較手法は、記述的な事例研究に含まれる情報を体系化する方法であり、記述的推論と因果的推論のために利用できるものである。

第2節
事実を整理する最良の科学的な方法は、事実を理論や仮説のもつ観察可能な含意として整理することである。科学的な方法によって単純化を行えば、ある理論(あるいは仮説)が検証に値するかどうかがわかる。つぎに、その理論が、事実の中から理論の持つ観察可能な含意となっているものを選び出す指針となるのである。

第3節
モデルとは、世界のある側面を単純化したものあるいは近似したものである。
モデルの適切さは、対象のどの特徴を研究したのかによって評価される。

第4節
データ収集のモデルは、変数、観察単位、そしてそれぞれの観察からなる。
あらゆるデータ収集において最も重要なルールは、そのデータが作成された方法と、そのデータを入手した方法を明示することである。集めた情報は全て、理論の持つ観察可能な含意を特定するのに役立つものでなければならない。

第5節
細かな歴史的ルールを要約するときには、まず、記述しようとする現象に焦点をあてる必要がある。次に、情報を単純化する必要がある。

第6節
推論の根本的な目標の一つは、研究対象となった現象に含まれる体系的な要素を非体系的な要素から区別することである。
体系的要素は、それがある値をとるときに、継続して一貫した効果をもたらす。それに対して、非体系的要素は一時的なものであり、それゆえ、非体系的要素のもたらす効果を予測することは不可能である。

第7節
この最終節では、統計学において推論の方法を判定する際に一般的に使われる、三つの明確な基準、すなわちバイアスのないこと、有効性、および一致性について述べる。
・1
平均として正しい答えが得られる場合には、この推論の方法あるいは「推定量」はバイアスがないと言える。
・2
すべての条件が同一の場合、観察が多いほど分散が低下する(有効性が上昇する)ので、観察が多い方がよい。実際、一致性という性質が示すように観察の数を非常に多くしていくと、推定値の散らばりがゼロに近づき、そしてその推定値がパラメータの真の値と一致するようになる。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉