『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第3章

King, Gary., Keohane, Robert O. and Verba, Sidney. Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research, Chapter3, Princeton University Press, 1994.(邦訳:真渕勝訳『社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論』第3章, 勁草書房, 2004年.)

【要約】
第3章 因果関係と因果的推論
社会科学者には、歴史家と同じく、歴史の詳細を要約し記述的推論を行う義務がある。しかしながら、社会科学の研究目的によっては、因果的推論なしでは分析が完結しないことがある。

第1節
・1
因果的効果とは、説明変数がある値をとるときに得られる観察の体系的な要素と説明変数が別の値をとるときに得られる観察の体系的な要素との差である。
・2
推論の論理に従えば、たとえばある法案が期待された効果をもったかどうかについて、近似的な解答を得られるような研究設計を立てることができる。

第2節
・1
私たちは、ある事例に含まれるすべての因果メカニズムを理解せずとも因果的効果を特定することはできるけれども、因果的効果の概念を定義することなくしては因果メカニズムを特定することはできない。
・2
様々な要因が重なり合っている状況を理解する鍵は、それぞれの因果的効果を構成する反事実的条件を、できるだけ厳密に定義することにある。
・3
ある説明変数の値が増加したときに現れる効果と、そのつぎに説明変数の値が減少したときに現れる効果の違いについての議論は、因果関係の定義とはなっておらず、ある種の因果的推論に関する議論にすぎない。本書の定義によれば、因果的効果とは、たとえば、ある選挙で現職候補がある選挙区で得票する割合と、同じ選挙で非現職候補が同じ選挙区で得票する割合との、体系的な差のことをいうのである。

第3節
因果的推論は確実には行いえないという根本問題を回避するためには、単位同質性の仮定と、条件付独立の仮定という二つの仮定が役立つ。
・1
因果的推論の根本問題に対する真の解決方法がない場合、次善の仮定を立てることができる。それは、もし、説明変数がある値をとった際、二つの観察単位における従属変数の期待値が同じであるならば、この二つの観察単位は同質的であると考えるというものである。
・2
条件付独立の仮定とは、説明変数を考慮に入れた後に行う説明変数への値の割り当てが、従属変数の値とは独立に行われていると考えるものである。

第4節
確率変数という観点から因果関係を定義することによって、因果的推論の可否を、不偏性(バイアスがないこと)と有効性という二つの基準で判断することができる。

第5節
・1
理論はできるかぎり容易かつ即座に誤りが発見できるようにつくるべきである。また、その理論がどの範囲を説明できるのかということが重要である。
・2
内的に一貫していない理論は、間違った理論である。しかし、実際には理論に内的な一貫性をもたせることは難しいものである。理論内部において一貫した理論をつくりだす一つの方法は、数理的なフォーマル・モデルを用いることである。
・3
研究において従属変数を選ぶ作業は、その研究の優劣を決定するほど重要であるので、いっそう注意深くならなければならない。ここでは三つの問題を提起する。第一に、従属変数はあくまでも従属的でなければならない。第二に、従属変数が一定になるような観察を選んではならない。第三に、説明しようとする変動を代表するような従属変数を選ぶべきである。
・4
観察できない概念よりも、観察できる概念を用いるべきである。
・5
理論は、できるだけ世界の多くの範囲を説明するようにつくらなければならない。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉