『ケース・スタディの方法 』第2章

Yin, Robert K. Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed., Chapter2, Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦『ケース・スタディの方法 』第2章, 千倉書房,1996年.)

【要約】
ケース・スタディを実施するためには、他のリサーチ研究をする時と同様に、リサーチ設計が必要になる。ここでいうリサーチ設計とは、設定した問題意識に答えるためにデータを収集し結論に到達するためのプランである。
リサーチ設計は、1.研究問題、2.命題、3.分析単位、4.データを命題に結びつける論理、5. 発見物の解釈基準、という5つの構成要素から成る。
ケース・スタディにおいては、「どのように」、「なぜ」という問題を設定し、説明すべき命題を設定する必要がある。また、対象とする分析単位を設定し、どういうパターンが命題を説明することに適しているかということや、異なるパターンと実際の観測値がどれほど対照的であるかということを示す必要がある。
研究ではその適用範囲が明確な理論命題を持ち、収集すべきデータとデータを分析するための戦略を決めておく必要がある。
なお、ケース・スタディの結果を理論に一般化するためには、「統計的一般化」というサンプルから母集団に関する推論を行う方法ではなく、「分析的一般化」という追試の論理を用いる必要がある。
ケース・スタディのリサーチ設計の質を確保するためには、1.構成概念妥当性、2.内的妥当性、3.外的妥当性、4. 信頼性という4つのテストを実施することが有効である。
このうちまず、構成概念妥当性とは、事象を説明する尺度が予め特定できているかということであり、内的妥当性とは、ある事象の因果関係が適切に説明できているのかどうか、外的妥当性とは、個別のケース・スタディによる発見物が一般化できるかどうか、そして、信頼性では同じ方法を用いた研究を実施すれば、同じ研究結果が得られるか否かを問題とする。
ケース・スタディの設計は単一ケース設計と複数ケース設計に分けることができ、これらのケース・スタディ設計はそれぞれ全体的ケース設計と部分的ケース設計に分けることができる。
このうち、単一ケース設計では、特定の理論命題が正しいか否かを特定する場合や、ケース自体がユニークである場合、または、科学的な研究がなされていない新事実のケースの場合に用いられる。なお、単一ケースを設計・実施する場合には、その分析単位を定義する必要がある一方で分析単位に過度の関心が向けられる場合には、ケースのより大きな側面が見過ごされてしまう事に注意しなければならない。
単一ケース・スタディと複数ケース設計にはそれぞれに長所と短所がある。
このうち、複数ケース・スタディの長所は、複数のケースによって事実や理論を追試できることにある。
ケース・スタディ設計は研究の始めにだけ考えれば良い問題ではない。当初の設計に誤りがあることが分かれば、設計自体を見直すこともあり得る。しかし、研究者自身が自分の研究の理論や関心さらには目的などをかえることによって、研究の発見物をケースに合わせて変えることがあってはならない。前者の変更はたとえば、実験を実施することが判明できない場合に、その実験を変更することとかわりないが、後者の変更は研究結果に合わせて都合よく研究目的を変更する行為であり、不合理なものである。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉