『コミュニティ グローバル化と社会理論の変容』

Delanty, Gerard. (2002) Community, Routledge.(山之内靖・伊藤茂訳『コミュニティ グローバル化と社会理論の変容』, NTT出版, 2006.)

【要約】
近代世界において個人は寄る辺ない不安定化する世界の中に置かれ、そうした個人はくつろいだ気分になれる心地よい世界であるコミュニティを強く求める。
コミュニティは個人に対して不安定な世界の中での対話的な帰属の経験を与える。ここでいう帰属とは、不安定で、流動的で、非常に開放的で、高度に個人化された集団の中で表現される対話的な帰属である。
今日のコミュニティは、コミュニケーションの方式に基づく新たな形の帰属を受け入れるようになっている。こうしたコミュニティはモダニティの産物であり、個人主義や一定の柔軟性を前提としている。
現代のコミュニティの形態は多様であり、基本的に抽象的あるいは想像されたものであって、対話的な構造のかたちで表現されている。このコミュニティは人々に対して、不安定な世界における帰属感覚を提供する一方で、コミュニティ
は断片化・多元化し、人々に対して永続的な帰属形態を提供することができない。
つまり、コミュニティは人々に帰属の感覚を提供することで、寄る辺なさや不安定の経験に対する中和剤となっているが、その一方で、こうしたコミュニティは人々に対して単なる心地のよい幻想を提供しているにすぎないことが多い。
コミュニティはこれまでのところ場所に代わるものとはなっていない.コミュニティが幻想としてではなく、きちんとした場所との結びつきを確立できるか否かということが、将来のコミュニティ研究にとっての重要なテーマとなるだろう。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉