『人間機械論 第二版 人間の人間的な利用 』

Wiener, Norbert THE HUMAN USE OF HUMAN BEINGS, CYBERNETICS ANS SOCIETY : 2nd edition, Doubleday, 1954.(邦訳:鎮目恭夫・池原止戈夫訳『人間機械論 第二版 人間の人間的な利用 』みすず書房,1979年.)

【要約】
世界は水の中に落としたインクがどんどん拡がっていくように、時間の経過とともに秩序がなくなっていく傾向がある。しかし、機械や一部の生物は、無秩序化する世界の傾向の中で、自らを組織化してこの傾向に適合することができる。
生物や機械はあらかじめプログラムされた行動によってだけでなく、それらが実際にした行動を次の行動に活用することによって、無秩序化する世界に局所的かつ一時的に抗することができる。生物などは、個体が過去に経験した環境に応じて、その行動パターンを未来の環境に対して、より効果的に対処しうるかたちに変えることができる。
これまでの歴史に例をみないほど、急激に技術を進歩させ、環境を根本的に変えてしまった今日、私たちが環境の変化に合わせて、自分たちの行動を変化させる必要性は高まっている。私たちはこれまで以上にフィードバックを活用して、未来の行動を変えていかなければならない。具体的には条件反射のような低次のフィードバックだけでなく、過去の経験に基づく学習プロセスのような高次なフィードバックを活用して、行動や行動の政策全体を調整していかなければならない。そのためには、人間の資質を十分に伸ばせるような世の中をつくらなければならない。簡単だからといって、人間に対してその全資質より少ないものを需め、実際の資質よりも少ないものしかもっていないものとして人間を扱うことを許す世の中をつくってはならない。
人間は環境の変化に適応するための生理学的および知能的な要件を備えている点で他の生物よりも優れている。人類は、その生理学的構造によって可能な生来の適応的・学習的な諸能力を利用する限りにおいて強いのである。
人間のもつ可能性の大きさを無視してはならない。将来起こりうる事態に限られた方法でしか適応できないようにしてはならない。人間が利用可能な能力を最大限に活用することによって、不確実で後戻りすることのない未来に適応できるようにしておかなければならない。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉