『システムの科学 』

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹『システムの科学 』パーソナル・メ ディア,1999年.)

【要約】
自然科学の中心課題は不思議なことをごくあたりまえのことにすること、すなわち、正しく観察すれば、複雑性も単純性をおおう仮面にすぎないということを明らかにすることである。したがって、自然科学の任務は不思議なことでも理解できないことではないということを明らかにし、どうすればそれを理解できるようになるのかということを示すことである。
一方、「人工」科学は人工的な物体と現象に対する知識の体系であり、人工物の内部環境を外部環境に適合させることにかかわりをもつ。すなわち、人工物の科学の任務は望ましい性質をもった人工物をいかにつくり、またそれをいかにデザインするかということにある。ここでいう人工物とは、自然法則を無視したり、破ったりせずに、人間の目標や目的に適応するものである。そして、人工物は人間の目的に適応するものであるがゆえに、人間が求めるものが変われば、その人工物は変化するという特性がある。
この人工物はそれ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がそのなかで機能する環境である「外部」環境の両者の接合点(インターフェイス) としてみることができる。
人工物の内部環境と外部環境を区別することは人工物を科学する上でとても有益である。なぜなら、人工物の内部環境が外部環境に適合しているか、あるいは逆に、外部環境が内部環境に適合しているならば、人工物はその意図された目的に役立つからである。
人工物の科学は目標を達成する人工物をいかにデザインするかということにかかわりをもつ。そして、現存の状態をより好ましいものにかえるべく行為の道筋を考案するものはだれでもデザイン活動をしている。彼らは人工物を目標に適応させる過程で、デザインの代替案の探索、評価、表現の問題に直面している。このように考えると、デザインは、すべての専門教育の核心をなすものである。したがって、すべての教養人の中心的な学問の一つとし て、人間固有の研究領域はデザインの科学にほかならない。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉