『経営者の時代(上) 』

Chandler, Alfred D. Jr. The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business, The Belknap Press of Harvard University Press, 1977.(邦訳:鳥羽欽一郎・小林袈裟冶『経営者の時代(上) 』東洋経済新報社,1979年.)

【要約】
合衆国憲法批准後、人口増加と産業革命の影響を受けてアメリカ経済は拡大し、ビジネスは専門化した。
商業取引の量が増加した結果、個人が商業活動の全てを取り仕切ることはなくなり、特定の商品だけを扱う者や特定の商業活動だけを行う商人が出てきた。
しかし、当時は商品の移動を伝統的なエネルギーに頼っていたので、一定の時間内に個々の事業単位によって処理される商品の量と取引の数は全く変わらなかった。
また、生産部門では労働力の不足や伝統的な技術への依存から、企業の生産量や企業規模の拡大は制約されていた。
しかし、次第に工場内では生産工程が統合化され始め、豊富な石炭の利用可能性が高まってきていた。
そして、革新的な鉄道・通信の利用が始まると、企業は業務の細分化・専門化を進め、大規模化した企業のなかでは、財貨の流れを管理する俸給経営者が必要とされ始めた。
鉄道や電信の利用が始まると、それまでは制限されていた企業の活動量は増加するようになった。
しかし、鉄道で貨物と旅客を安全かつ経済的に輸送するには、貨客の移動についての慎重な調整と管理が必要とされた。この調整と管理は単一の事業体によって担当されていた。
また鉄道によって取り扱われる財務取引の量が増大してくると、その情報を管理・分析するために新しい会計手法が開発されるようにもなった。
こうして鉄道会社は最初の近代企業になった。
鉄道会社は広範に分散している人員や事業所を多数の俸給管理者によって統括し、あたらしい会計手法を利用することで内部情報の継続的な流れを確保した最初の企業だった。
鉄道の登場によって、効率的な貨物の移動が可能になった。しかし、当時の鉄道網は統合された状態ではなかった。複数の事業体が異なる規格の軌幅や車両を使用していたため、貨物の積み替えには依然として高いコストがかかっていた。これをさらに効率的なものとするためには異なる企業間の協調が必要だった。企業間の破壊的競争を防ぎ、統合された全国的交通網の創出のために異なる企業が自律的に協調することが必要だったのである。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉