「21世紀の科学−大文字の第2次科学革命−」

吉田民人「21世紀の科学−大文字の第2次科学革命−」『組織科学』第32巻,第3号,1999年,4-26ページ.
http://www.hakutou.co.jp/mag_detail/1-32-03/
【要約】
17世紀の物理革命に触発された「大文字の第1次科学革命」とともに成立した近代科学は、第1に、世界の唯一の根源的な構成要素は物質とエネルギーであり、第2に、世界の唯一の根源的な秩序原理は法則とその倫理・数学的な構造であるということを示した。
 しかし、この17世紀に成立した近代科学の正統派パラダイムは20世紀の生物革命に触発されて大きく転回しようとしている。
 すなわち、科学は「物質エネルギーと法則」を扱う「物理科学」から、物質エネルギーを前提として「記号的情報とプログラム」を扱う「情報科学」へと歴史的転回を果たそうとしている。そして、こうしたパラダイムのシフトを「大文字の第2次科学革命」と呼ぶ。
 この大文字のネオ・パラダイムは、世界の根源的な秩序原理として、物質エネルギー以外に「情報」の存在を明確に示し、世界の根源的な秩序原理としての法則以外にプログラムの存在を肯定する。そして、「物質エネルギーと法則」を物理科学的世界に限定し、その物質エネルギーと法則を不可避・不可欠の条件としながら、生物科学的・人文科学的世界には、「記号情報とプロブラム」という新たな基礎範疇とそれを支える自然科学を導入しようと提案する。
 ネオ・パラダイムでは、物質エネルギーを前提とする生物的・人間的世界はすべて「記号」から構成されていて、その秩序はそれぞれの進化段階のプログラムによって、設計・制御されていると考える。この「大文字の第2次科学革命」は、17世紀からの近代科学を再編成するものである。それは、一方で、対象への働きかけとそのフィードバック・ループを含む設計科学と、情報とその時空的・意味的その他の変換を行う情報科学に正当な権利を与える。
 また他方で、生物化学的・人文社会科学的な設計論的世界の記号的情報とその変換を制御する秩序原理であるプログラム科学と、従来型のディシプリンに対置される自由領域科学を提唱する。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉