『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて 』

Chesbrough, Henry Willam “Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology”, Harvard Business School Press, 2003, Boston. (邦訳:大前恵一郎『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて 』産業能率大学出版部, 2004年)

【要約】
クローズド・イノベーションを指向する企業は既存のビジネス・モデルに適合するテクノロジーを製品化する。こうした企業は既存のビジネス・モデルに合わないテクノロジーは捨ててしまう。しかし、テクノロジーは異なるビジネス・モデルを用いることによって大きな価値を生み出すことがある。なぜなら、テクノロジーの価値とはビジネス・モデルが決定するものだからである。
テクノロジーを用いてビジネスをする場合には、テクノロジーとマーケットの不確実性をマネジメントする必要がある。しかし、未熟なテクノロジーの評価は困難であるため、大企業では未熟なテクノロジーを開発するための予算はつきくい。ところが、優秀な技術者や研究員は自分たちが開発したテクノロジーを市場で試してみたいと考えている。そのため、こうした技術者や研究員はベンチャー・キャピタルから資金提供を受けているベンチャー企業において新しいビジネス・モデルでテクノロジーをマーケットに出そうと考えるようになる。そして、こうしたことが可能な環境においては、クローズド・イノベーションは時代遅れの考え方となってしまう。こうした環境においては、クローズド・イノベーションに代わるパラダイムとしてオープン・イノベーションがその有効性を示すようになる。
オープン・イノベーションとは、社内で研究されたアイデアと社外のアイデアを結合し、自社の既存ビジネスに他社のビジネスを活用することである。企業にとって重要なことは、システム・アーキテクチャにおいて欠けている部分のうち、自社で開発するものは何かを見極めること、また、自社で開発した部品を全体のシステムにどのように結合するかを見極めることである。
テクノロジー潜在的な価値を持つ。この価値はビジネス・モデルを用いて経済的な価値に変換することができる。そして、テクノロジーは経済的な価値を生み出してはじめてその価値が顕在化する。ビジネス・モデルはテクノロジー潜在的な価値を顕在化させるものである。しかし、ビジネス・モデルは企業にとっては両刃の剣である。なぜなら、効率的なビジネス・モデルは企業に利益を生み出すと同時に、企業行動の制約条件になってしまうからである。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉