『創発経営のプラットフォーム』

國領二郎, プラットフォームデザイン・ラボ編著『創発経営のプラットフォーム』日本経済新聞社, 2011年.

【要約】
プラットフォームの設計は、「多様な主体が恊働する際に、恊働を促進するコミュニケーションの基盤となる道具や仕組み」をつくることを目指すものである。
しかし、プラットフォームが恊働の促進を図るとき、単に多くの人間をつなぐだけでは、混乱が起こるばかりで、予期せぬ付加価値は生まれない。この価値を生み出すためには、制約が必要になる。
もっとも、制約は設定の仕方次第で、恊働を促進もするし、抑制もするので、いかなる制約を設計してプラットフォームを構成するのかが大きなポイントとなる。
プラットフォームの設計には、次元の異なる以下の5つのパラメータが考えられる。
1.コミュニケーションのパターンの設計
2.役割の設計
3.インセンティブの設計
4.信頼形成するメカニズムの設計
5.参加者の内部変化のマネジメント
もっとも、これら5つの観点は、互いに独立しているわけではなく重層的に関連し合っており、概念的な次元というよりもプラットフォームを設計する際に役立つと考えられるいくつかのものの見方を示している。
これらの設計変数は組み合わせることで、全体として創発的価値創造を持続的に起こし、社会にもプラットフォーム事業者自体にも利益をもたらす空間を現出させることが可能になると考えられる。
それでは、複数の主体が相互作用することで、必ずしも予測しない付加価値が生み出される創発現象を生み出すプラットフォームを実際に設計する場合には、どのような指針に従えば良いのだろうか。
これについては、これまでの事例分析から仮説導出的に次のような指針に整理することができる。
指針1:資源(能力)が集結して結合する空間をつくること
指針2:新しいつながりの生成と組み替えが常時起こる環境を提供すること
指針3:各主体にとって参加の障壁が低く、参加のインセンティブを持てる魅力的な場を提供すること
指針4:規範を守ることが自発性を高める構造をつくること
指針5:機動的にプラットフォームを構築できるオープンなインフラを整えること
もっとも、これらの指針はこれまでの事例分析から帰納的、仮説導出的に得られたものであるので、科学的にはこれらの妥当性はさらなる実証研究によって検証していくことが今後の課題となる。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉