『デザイン・ルール―モジュール化パワー― 』

Baldwin, Carliss Y. and Kim B. Clark Design Rules, Volume 1.: The Power of Modularity, The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳『デザイン・ルール―モジュール化パワー― 』東洋経済新報社,2004年.)

【要約】
20世紀後半、コンピュータに代表される人工物の設計は、驚くほど複雑なものとなってきた。もはやこうした人工物は1人の人間で作り出すことができず、理解することもできない状態になっていた。そこで、人間はこうした人工物を相互に独立して作業することが可能な単位に分割することによって、「1人の人間の限界」を克服し、その複雑性に適応することを考えた。
しかし、人工物の設計構造の一部をなす、設計パラメータ同士は、複雑に絡み合った状態で相互に依存しているため、人工物に複雑性が発生することは避けられない。こうした状況において、設計者は各々が自分の担当しているパラメータが他のパラメータに依存していることを認識し、それぞれがパラメータに関連する情報をお互いに伝達・共有することによって、パラメータの選択を調整しなければならない。
こうした人工物がもつ複雑性に適応するための方法として、人工物の生産に必要とされる知識と労力の厳密な仕切りを確立するという方法がある。この方法では、人工物の生産を確立されたデザイン・ルールに従わせることによって、相互に独立して作業することのできる単位にした上で、他の単位と結合可能な状態にすることにより、その複雑性を管理する。
この方法では、人工物の構成単位のバラメータの詳細を改変可能な状態にしておくべきでない。なぜなら、仮にプログラム・コードの特定ブロックの詳細部分が、他のブロックから意図的に「隠されている」ならば、プログラムの他の部分を変更せずに、そのブロックを変更できるからである。
人工物の設計者は、常に人工物が価値を持つことを望む。彼らは価値を作り出す人工物を生産するために、生産における複雑性を管理しようとする。この価値は社会にどうのように利益を与えるのかという基準で評価される。また、契約によって、設計者は価値を生み出す組織が形成、維持されることを可能にし、人々がどのような価値を持つかということを認識したうえで、その価値の実現に向けて、人々を誘導することを通じて人工物が継続的に社会に価値を与えることを可能にするのである。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉