『創発する社会―慶應SFC~DNP創発プロジェクトからのメッセージ』第2章

國領二郎編著『創発する社会―慶應SFC~DNP創発プロジェクトからのメッセージ』, 第2章「創発しようぜ!」, 日経BP企画, 2006年.

【要約】
「自律した個」が「つながり」の中で相互作用を起こすことで、結果として予期せぬアウトカムが起こり、そのアウトカムが個にフィードバックされるプロセスを創発という。この創発は意図的に直接生み出したり制御したりすることは不可能である。
しかし、「創発を誘発するような空間」を設計したり、作りこんだりすることは可能で、設計のあり方によって、空間内で発生する創発現象のあり方に影響を与えることも可能である。
また、ネットワークの発達によって、今までには不可能だった時間や空間を超えた「つながり」を可能にすることで、多様で生産性の高い「創発空間」を生み出す可能性がある。
創発を個の「つながり」の中から生まれるものという認識に至った時、創発空間づくりは「価値を生むつながり」を生み出す空間の設計であると位置づけることができる。そして、情報技術を活用する創発の空間モデルを実装すると、ネットワーク空間は「汎用的インフラストラクチャ」と「コンテキスト」の二層に分けてモデル化できる。ここでは、汎用性の高いインフラストラクチャによって、低コストで多様なコンテキストを設定することが可能になり、それが様々な相互作用を媒介することによって、新しい結合と創発が生まれるというシナリオが想定されている。
ここでいうインフラストラクチャとは、情報の意味とは無関係に、記号としての情報を運ぶ物理的な媒体のことを指している。また、コンテキストとは、運ばれた情報が主体間で理解されるにあたって依拠するルール(語彙、文脈、文法、規範など)と、それを体現したソフトウェアなどの仕掛けをさす。そして、この二つを明確に区別することが創発を誘発する空間設計に役立つ。なぜなら、創発は汎用的なインフラストラクチャの上に形成されたコンテキストが、それに関する「個」のつながりを作り、相互作用を引き起こす中から生まれるという基本構造があるからである。
このように創発の発生する基本構造は明らかになっている。しかし、創発を誘発するコンテキスト設計の具体的な方法論については、まだ統合フレームワークが出来上がっているわけではない。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉