『決定の本質: キューバ・ミサイル危機の分析』

Allison,Graham T. Essence of Decision: Explaining the Cuban Missile Crisis, Little, Brown and Company, 1971. (邦訳:宮里政玄訳 『決定の本質: キューバ・ミサイル危機の分析』中央公論社,1977年.)

【要約】
本書の狙いは次の2つである。
1つは、キューバ・ミサイル危機の以下の3つの謎を解明することである。
(1) なぜソ連キューバに攻撃用ミサイルの配備を決定したのか
(2) なぜアメリカは海上封鎖でもってミサイルの展開に対応したのか
(3) なぜソ連はミサイルを撤去したのか
もう1つは、キューバ・ミサイル危機のような事件について考える際に、ほとんど人々が用いる基本的な分析枠組みを明確にした上で、これに代わりうる2つの枠組みを探求することである。
以下では3つの分析枠組みによって、3つの謎はどのように説明できるのかを見ていく。
1.合理的行為者モデル
国家や政府が行動する場合の目的に焦点を当て、この目的に照らして、国家や政府のなすべき合理的な行動について考えるモデル
このモデルによって分析すると、3つの謎は以下のように説明できる。
(1) なぜソ連キューバに攻撃用ミサイルの配備を決定したのか
ここでは5つの選択的仮説を示すことができる。
1.キューバのミサイルと引き換えにトルコにあるミサイルを撤去させるため
2.アメリカにキューバを攻撃させている間にベルリンに対して強い手を打つため
3.アメリカによるキューバ侵攻を抑止するため
4.アメリカに政治的なダメージを与えることによって、冷戦体制においてソ連が優位に立つため
5.アメリカとソ連との勢力均衡を実現するため
(2) なぜアメリカは海上封鎖でもってミサイルの展開に対応したのか
アメリカが戦略的、地理的優位を利用し、その一方で、恥をかかせずに後退する時間とゆとりをソ連に与えるため。
(3) なぜソ連はミサイルを撤去したのか
ミサイルを撤去しなければ、アメリカが空爆あるいは侵攻を行うという明示的なおどしが存在したため。
2.組織過程モデル
組織の出力は現存する組織の特徴、手続、レパートリーの結果生み出されたものであると考えるモデル
このモデルによって分析すると、3つの謎は以下のように説明できる。
(1) なぜソ連キューバに攻撃用ミサイルの配備を決定したのか
ソ連のミサイル力を急速に増強するため。(軍備増強に際しての異常な行動は組織の典型的な行動によって説明できる)
(2) なぜアメリカは海上封鎖でもってミサイルの展開に対応したのか
組織上の問題から他の選択肢を取ることができなかった。
(3) なぜソ連はミサイルを撤去したのか
組織上の情報伝達に問題があったため、ソ連アメリカの計画を見抜くことができなかったため。
3.政府内政治モデル
政府がある行為をなしたのであれば、その行為はゲームのプレーヤー間のかけひきから派生した結果であると考えるモデル
このモデルによって分析すると、3つの謎は以下のように説明できる。
(1) なぜソ連キューバに攻撃用ミサイルの配備を決定したのか
以下の問題に対するソ連側の異なる人々の独特の認知が重なってミサイル配備という決定がなされた。
1.キューバ問題、2.戦略問題、3.ベルリン問題、4.経済問題、5.国内的争い
(2) なぜアメリカは海上封鎖でもってミサイルの展開に対応したのか
影響力の強い人物が空爆を否定し、空爆を主張する人と大統領の関係が緊密ではなかったため。
(3) なぜソ連はミサイルを撤去したのか
ケネディとフルシチェフが核の大流血に反対するゲームでパートナーであったため。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 川村真哉