『新訳 経営者の役割 』

Barnard, Chester I. The Functions of the Executive, Harvard University Press, 1938.(邦訳:山本安次郎・田杉競・飯野春樹『新訳 経営者の役割 』ダイヤモンド社,1956年.)

【要約】
組織の要素は伝達・貢献意欲・共通目的である。
組織の中では様々な伝達が行われていなければならない。もっとも、ここでいう伝達は言語による伝達に限定されるわけではなく、行動や雰囲気といったものも組織内で伝達される。伝達の対象となるものの一つとして、組織を構成する人々が、組織に貢献するためにする行動がある。組織の貢献者の行動も様々な方法を通じて伝達されるのである。そして、こうした行動の伝達によって貢献意欲を持つ人々を組織化することが可能になる。また、組織には共通の目的がなければならない。そして、ここでいう目的は一般的なものでなければならない。ある人が個別具体的に持つ目的は組織の目的にはならない。個人が持つ具体的な目的は、それを抽象化しなければ組織の共通目的とはならない。
人々は目的を達成しようとする場合に様々な制約に直面する。そして、こうした制約は克服可能なものかもしれないし、克服不可能なものかもしれない。また、一人では克服できない制約も、多くの人々と協働することによって克服できるようになるかもしれない。
多数の人々と協働することによって、制約を克服できる可能性がある場合に、人々は協働することによって、そうした制約の克服を試みる。しかし、人間はそれぞれ多様な考えを持っている。そして、共通の目的を持たない雑多な人々の集まりも組織ということができる。ただし、こうした組織は公式組織と呼ぶことはできない。このような共通の目的は持たないが、個人的な接触や相互作用がある組織は非公式組織と呼ばれる。ただし、こうした非公式組織が公式組織を生み出すのである。非公式組織は、その集団を構成する人々が協働することによって制約を克服できると考えた場合に、公式組織を結成しその制約を克服しようと試みる。
しかし、組織化は容易に達成されるものではない。組織はその目的を達成できない場合にも、その目的を達成してしまった場合にも、その組織の存続意義を失ってしまう。また、効率的に目的を達成しようと思えば、その組織の貢献者の目的を不十分にしか一般化することができなくなってしまい、貢献者の利害を一致させることができなくなってしまう。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉