『人間機械論 第二版 人間の人間的な利用 』

Wiener, Norbert THE HUMAN USE OF HUMAN BEINGS, CYBERNETICS ANS SOCIETY : 2nd edition, Doubleday, 1954.(邦訳:鎮目恭夫・池原止戈夫訳『人間機械論 第二版 人間の人間的な利用 』みすず書房,1979年.)

【要約】
自然界には無秩序性が増大し、エントロピー(非組織性)が増大していく傾向がある。つまり、自然界には組織性を低下させ意味を破壊する傾向がある。
生物と機械は共にフィードバックを通じてこのエントロピーを制御するために行動している。生物と機械はそれがやるはずの行動によってではなく、実際にやった行動に基づいてコントロールされる。別の言い方をすると、この両者は共に、感覚器官(感覚受容器)を通じて情報を取り入れ、受け取った情報に基づいて行動している。
機械と生物は、自己の行動パターンを過去の経験に基づいて修正し、特異な組織性を増大させる目的の達成に適合させている。それらは外界から低いエネルギー・レベルで情報を集め、その情報をその個体または機械の行動に役立てるための特殊な装置をそなえている。
そして、動物の行動の場合も機械の場合も、これらの外からのメッセージはそのままで取り込まれるのではなく、その装置の内部の変換機関を通じて取り入れられる。こうして情報が、行動のその後の段階の遂行に利用できる新しい形にかえられ、遂行行動を外界に対して効果的なものにさせる。動物と機械のどちらにおいても、単にそれらがしようとした動作ではなく外界に対し実際に遂行された動作が中央制御装置に報告される。
そして、動物の中でも特に人間は情報を受け取り利用していくことによって、環境の予知しえぬ変転に対して自己を調整していき、そういう環境の中で効果的に生きていくことができる。
しかし、ファシストや実業家は適切なフィードバックをすることができる人間を単に高級な神経をもつ有機体といわれるものの行動器官として扱う。
彼らは上から下への命令を好み、両方向的な通信の流れを無視しているため、人間に対する全くの誤認に基づいた命令をしている。
もっとも、権力欲にとりつかれたものにとって、人間を単純な機械のように扱うのは彼らの野望を実現するのに簡単な方法である。
しかし、人間の実情を無視してなされる命令は長期的に見れば人類の存続を危うくすることを意味する。

慶應義塾大学総合政策学部2年 川村真哉