『市場・知識・自由』「真の個人主義と偽の個人主義」

Hayek, F. A., Individualism: True and False, Hodges, Figgis & Co., Ltd., Dublin, and B. H. Blackwell, Ltd., 1946.(邦訳:田中真晴・田中秀夫編訳 「真の個人主義と偽の個人主義」『市場・知識・自由』第1章,ミネルヴァ書房,1986年.)

【要約】
個人主義」には「偽の個人主義」と「真の個人主義」が存在する。
「偽の個人主義」は、国家以外の集団による強制的権力の行使を否定する。国家以外の集団が個人の権利を不当に侵害することを否定することによって、個人を保護することを目指す。
一方、「真の個人主義」では、強制的権力の行使を否定するのではなく、制限する。この考え方では、個人の権利を保護する為に強制的権力が用いられることを認めたうえで、国家によるものであれ、その他の集団によるものであれ、他人による権力の強制を制限することによって、個人を保護することを目指す。
「偽の個人主義」は個人の活動を制限する強制権力の行使を認めている点で誤っている。一方、「真の個人主義」は個人の活動を保護するために、強制権力を行使するか否かを決定する。個人は活動を保護された状態で初めて、個人が能力を超えた事を達成することができる。個人の能力を超えた偉大な社会を実現する為には「真の個人主義」を認めることが必要である。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉