『交換理論と社会学の方法 』

久慈利武『交換理論と社会学の方法 』新泉社,1984年.

【要約】
交換理論で定義されている「交換」とは、他者にとって価値のあるものを供与することによって、その他者から自己にとって価値あるものを獲得するという自己と他者の間の相互行為をいう。ここでは、両者とも自分が他者に提供したものよりも、自分が他者から手に入れたものの価値が上まわっていることを望み、より多くの利益を得るために両者は「交換」を行うと考えられている。
この交換理論はホマンズとブラウという交換理論体系の先駆者によってその基本構造が築き上げられてきた。
ホマンズの交換理論では、行為者が行動によってもたらされるものが、自分にとって快ならばその行動を繰り返し、不快ならばその行動をしないようになるという心理学的な意味合いと、もたらされるものが利益になるならその行為を繰り返し、不利益になるならその行動をしないようになるという経済学的な意味合いを折衷している。
一方、ブラウの交換理論では、交換行為のバランス(互酬性)に着目している。彼の理論では自分が受けたサービスのみかえりに同等のサービスを返すことのできない者は、代わりに自分が相手に服従することでバランスを保とうとすると考える。そして、この考えをもとにこうした諸個人間のミクロな社会構造の複合体としてマクロな社会構造が現出すると考えている。
しかし、こうした両者の理論には批判も多い。
まず、ホマンズの理論に対しては、全ての人間が打算的に行為を選択しているわけではなく、他人に対する哀れみの気持ちや、自分の属する集団に対する思いやりからなされる非打算的な行為も存在するのではないかという批判がある。
また、ブラウの理論に対しては、一般社会においては既に確立した社会構造が存在しているにもかかわらず、その社会構造を無視して当事者間の相互に依存しあう等価な交換が実現されていると考えることはできないという批判が存在する。
また、交換理論そのものも、ホマンズとブラウによってその議論のほとんどが語りつくされた感があるため、社会学的な展開は進んでいないという状況にある。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉