『Linuxはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦略 』

佐々木 裕一・北山 聡『Linuxはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦略 』NTT出版,2000年.

【要約】
製品やサービスの最終的なユーザーである生活者の知恵が生かされやすい企業のうち、人件費など固定費負担の大きい企業はコミュニティ・アライアンス戦略を取り入れた事業に適している。
このような企業においては、独立したコミュニティ上で生活者の知恵を編集して価値を増大させたうえで、その「編集価値」をもった情報財を企業が「経済価値」に変換することによって事業展開することができるのである。
そして、今後非常に多くの企業が事業を展開するうえで、コミュニティと協調した上で、そのコミュニティが生み出した「編集価値」を「経済価値」へ変換するモデルを採用する必要性が高まってくる。なぜなら、製品やサービスに生活者が生み出す知識を編集した「編集価値」を活用できる範囲は非常に広く、その「編集価値」から「経済価値」を得ることによってコミュニティが継続的に「編集価値」を生み出していくことが可能になるからである。
しかし、ここで企業はコミュニティの生む「編集価値」をどのように自社の事業に活用するかということについて注意して考えておかなければならない。すなわち、どのようにしてコミュニティと企業が協調して価値を生み出し、その価値の変換を行うのかについて考えておく必要がある。
企業はコミュニティがインタラクションの中から動的に移り変わる環境に応じた「編集価値」を継続的に生み出せるようにサポートする必要がある。また、企業は情報をパッケージ化し、企業として責任あるサポートと保障を与えることによって、情報財に対する信頼性を高める必要がある。
そして、こうした取り組みの結果、企業はコミュニティで生成された「編集価値」を市場が求める形に変換することによって情報財に「経済価値」を与えることができる。企業は一般市場とコミュニティの仲をとりもつインターフェイスとして機能し、企業がコミュニティと協力関係を維持することによって事業展開することが可能になる。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉