『企業・市場・法』第2章

Coase, Ronald H., "The Nature of the Firm", Economica IV, 1937, pp.386-405.(邦訳:宮沢健一・後藤晃・藤垣芳文『企業・市場・法』, 第2章「企業の本質」, 東洋経済新報社, 1992年.)

【要約】
市場では価格メカニズムによって資源配分が行われている。一方、企業では企業家が資源配分を行っている。
それでは、なぜある場合には価格メカニズムが調整を行い、また別の場合には企業家がこれを行うのだろうか。
これは、価格メカニズムを利用した調整は、企業家による調整に比べて費用がかかることがあるからである。
では、組織化することによって費用を低減することができるのならば、市場取引というものは本当に必要なのだろうか。
なぜ全ての調整が一企業によって行われないのだろうか。これはいくつか理由がある。
まず、企業が大きくなるにともない、追加的な取引を企業内に組織化するための費用が増大することがある。
また、企業内に組織化される取引が増加するにしたがって、企業家が労働者などの生産要素を有効に利用し損なうことがある。
さらに、組織化することによって、独立心の強い労働者を引きとめるために必要とされる費用が高くなってしまうことがある。
以上の理由から企業の拡張には限界があると考えられる。
追加的な取引を自らの企業内に組織化するための費用が、その同じ取引を公開市場で交換するための費用、もしくは他の企業の中に組織化される際の費用と等しくなるところまでしか、企業の拡張が進められないのである。
そして、次のような場合には企業規模は拡大する傾向があることが分かる。
まず、取引を組織化する費用が低いほど企業は拡大する。
また、企業が誤りをおかす可能性が小さいほど企業は拡大する。
そして、規模の大きな企業に対する労働者などの生産要素の確保に必要とされる価格が低いほど企業は拡大する。
さらには、労働者や製造ラインなどの生産要素をより近くに結びつけるのに役立つような発明が、空間的な分散を減じることによって、企業の規模の拡大を促す場合がある。電話や電信のような変化は、空間的な組織化の費用を減少させる傾向にあり、これが企業の規模を拡大させる傾向がある。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉