『イノベーションの普及 』

Rogers, Everett M. Diffusion Of Innovations: Fifth Edition, The Free Press, 2003.(邦訳:三藤利雄『イノベーションの普及 』翔泳社,2007年.)

【要約】
イノベーションとは、個人もしくは他の採用単位によって新しいものと知覚されたアイデア、行動様式、物のことを言う。
イノベーションの普及とは、イノベーションがコミュニケーション・チャネルを通して、社会システムの成員間において、時間的経過の中でコミュニケートされる過程のことをいう。
イノベーションには決定過程が存在する。個人がイノベーションについての最初の知識を得てから、イノベーションに対する態度を形成し、採用もしくは拒否の決定を行い、新しいアイデアを実行し、この決定を確信するまでには心的過程がある。
また、イノベーションには(1)相対的有利性(2)両立性(3)複雑性(4)試行可能性(5)観察可能性という5つの属性がある。これらの属性に対する個人の知覚から普及速度を予測することができる。
イノベーションの採用者は、新しいアイデアを採用する傾向を示す革新性によって、(1)革新的採用者(2)初期少数採用者(3)前期多数採用者(4)後期多数採用者(5)採用遅滞者の5つのカテゴリーに分類することができる。こうした普及対象者はイノベーションの決定においてまず、普及機関と普及対象者システムの中間的な立場にあるチェンジ・エージェントから影響を受けることが多く、チェンジ・エージェントは普及対象者のイノベーション決定に影響を与える可能性がある。ところが、実際にはチェンジ・エージェントと普及対象者の間には異類的ギャップが存在することがある。そのため、専門的なチェンジ・エージェントと普及対象者の間に存在するギャップを橋渡しする補助員がチェンジ・エージェトを援助することがある。しかし、チェンジ・エージェントや補助員は、普及対象者に対してフォーマルに影響を与える存在にすぎないので、比較的頻繁かつインフォーマルに他人の態度や顕在的行動に対し影響を与えることができるオピニオン・リーダーが個人のイノベーション決定に対して大きな影響を与えることが多い。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉