『自己組織化と進化の論理: 宇宙を貫く複雑系の法則 』

Kauffman, Stuart, At Home in the Universe: The Search for Laws of Self-organization and Complexity Oxford University Press, 1995.(邦訳:米沢富美子『自己組織化と進化の論理: 宇宙を貫く複雑系の法則 』日本経済新聞社,1999年.)

【要約】
従来、生物の世界の秩序は、ランダムな突然変異の中から自然が稀有で有用な形を選び出すことによって進化してきたと考えられていた。しかし、自然淘汰が単独で細胞や組織から生態系にまで及ぶ生物圏の詳細な構造を作り上げたわけではない。もう一つの原動力である自己組織化という基本理念によって、秩序は自然に自己発生的に生まれたのである。自然淘汰も自己組織化も単独で十分な働きをするわけではない。自発的に秩序が生じ、自然淘汰がそれを念入りに作り上げる。
生命とその進化はつねに、自発的秩序と自然淘汰が互いに受け入れあうことによって成り立ってきたのである。しかし、自己組織化の力を評価しきれない科学者は、生命の自発的な生成に見切りをつけてしまう。ところが、自己組織化の力をきちんと評価すれば、化学物質の集合が十分な種類の分子を含んでいるときには、そのスープから物質代謝が必ず現れるという事実が理解できる。
生物は分子のスープの中から自発的に発生した「無償の秩序」によって自然に表現されたものなのである。自然淘汰は個体発生における秩序の唯一の源ではない。生命は自己組織化と自然淘汰の混合の結果生じたものであり、生物には生じるべくして生じたという側面がある。この生じるべくして生じた生物を構成する細胞は、変化か死かを絶えず強いられ、その両方を行っている。細胞は自分たち自身の持つ触媒作用から生ずる幸運な結果や悲惨な結果に対応している。こうした細胞のとるステップは常に創造性の一つであるかもしれないし、死の一つであるかもしれない。
自然が生み出す秩序と自然淘汰によって形作られる生物は、ホモ・サピエンスが作り上げる人工物と類似している。どちらも一般的な法則が複雑なものの進化を支配している。生物の進化も人間の技術の進化も、はじめはあちこちに分岐し、分岐した先の変種は互いに全く異なるものである。しかし、適応度が高くなるにつれて次第に似たような変種へ向けて数少ない分岐しかしないという状態へ落ち着いていくという特性を持っている。

慶應義塾大学総合政策学部 川村真哉